閑話休題。Safari の話。バージョンが 3 になって、タブが操作できるようになりましたね。この変更に伴い、do javascript 命令はオプション in でタブを指定するように変更されています。以前まではどのドキュメントかを指定していました。以下のような感じです。
Script Editor で開く
tell application "Safari"
if exists front document then return do JavaScript "getSelection()+''" in front document
return ""
end tell
このスクリプトは、このままでも Safari 3 で動きます。そのうち動かなくなるのかな...と思わないでもないです。用語説明にあるように in オプションでタブを指定するなら以下のようになります。
Script Editor で開く
tell application "Safari"
if exists front window then ¬
return do JavaScript "getSelection()+''" in current tab of front window
return ""
end tell
Safari の環境設定でタブを利用しない設定にしていても動きます。tab クラスは window クラスの要素なので、対象ウィンドウのどのタブかを指定する事になります。
さて。このスクリプト。実際には問題があり、必ずしも動くとは限らない。これは AppleScript 2.0 に限った話ではなく、Mac OS X になってからずっとなのですが、。front window や front document という参照が最前面のウィンドウやドキュメントを指さない事があるのです。そのため、最前面のウィンドウで選択文字列があるにも関わらず、結果が空の文字列、またはエラーになる事があります。この現象は、Cocoa アプリケーションにおいて顕著です。
かなり以前から分かっていた問題なのですが、ここで紹介しているスクリプトでは敢えてこの事を無視していました。が、Safari のバージョンアップで do javascript でウィンドウの指定が必要になるなら話は変わってきます。今まではたいていのアプリケーションで document を対象にしていたのでなんとかやりくりしていましたが...それもここまでのようです(実際のところ Xcode でもこの問題に悩まされ、爾来、避けて通るようになったのですが)。
AppleScript は一番前面にあるウィンドウが window 1(= front window)、その後ろに続く順に 2、3、4...と、順番のつけ方が決まっています。他にも every window や every file といった参照を行った時どのような順番でそれぞれの要素が返ってくるかという事も AppleScript では仕様の上で決まっています。基本的には上(手前)からと下(奥)へ。左から右への順番です。これらの順番の付け方は、リストで返ってくる結果に影響します。
front window(front document)と書いて一番後ろのウィンドウの参照が返ってくるのは気持ち悪いし、予期していない結果をもたらすので確実に最前面にあるウィンドウの参照を得たい。が、これは一筋縄ではいかない問題なのです。例えば、以下のようにして全てのウィンドウの参照を得たとします。
Script Editor で開く
tell application "Safari"
every window
end tell
結果を見ると、表示されていないウィンドウ(環境設定やダウンロード)といったウィンドウの参照まで含まれます。また、Safari でダウンロードをしたときに開かれる「ダウンロード」というタイトルを持つウィンドウは、表示されていなくても front window といった参照で指定されてしまう事もあります。これが front document という参照なら、こういった関係のないウィンドウは除外される事になるのですが。
ちなみに window = document ではありません。document は window の要素で window に含まれるものです。window の中に document があるので every window は全て(表示されていないウィンドウも含む)のウィンドウの事で every document は document を持った全てのウィンドウという事になります。
つまり、document の指定は不要なウィンドウを対象に含まないのでそれだけ目的のウィンドウを指定するのが楽になるのです。全ての window の中から目的のウィンドウを指定するのより遥かに楽です。
少し、整理しましょう。やりたい事は、見えているウィンドウの重なり順で一番手前にあるドキュメントを持ったウィンドウを指定したい。問題は必ずしも一番手前にあるウィンドウが front window(or front document)の参照で取得できない。なぜ、ウィンドウの参照が欲しいのかというと、do javascript 命令でタブの指定を行う必要があるから。タブを指定するにはウィンドウの参照が必要で、かつ、そのウィンドウがドキュメントを持っていないといけない(一律に current tab of front window とすると「ダウンロード」などのウィンドウを指す可能性があり、結果、エラーにより終了する)。
さて、まずは document を持ったウィンドウのみを抽出してみましょう。window クラスは属性に document を持っています。これを利用し、フィルタ参照で抽出しましょう。
Script Editor で開く
tell application "Safari"
windows whose document of it is not missing value
end tell
これでドキュメントを持ったウィンドウを取得できます(逆に document から window の参照を得る事はできません。これができるといいのですが)。取得できるのですが、どのウィンドウが最前面にあるのかは分かりません(分からないというより、結果が信頼できない)。また、このスクリプトが動くのは Mac OS X 10.5 Leopard の Safari 3 以降、AppleScript 2.0 以降だけかもしれませんし、どの Cocoa アプリケーションでも動く保証はありません。逆に言うと、これら以前の環境では document を持った window を調べる手段がないという事です。
なぜかというと、window クラスが持っている document 属性が何も返さないお飾りの属性になっている場合があるし、また、上記のようなフィルタ参照は動かなかったと思います(Mac OS X 10.4.11 で試してみました。やはり動きませんでした)。古い環境を考えなくていいなら上記の方法でいいのですが、ここでは Mac OS X 10.4 と Mac OS X 10.5 の互換性を考えて document の name 属性を利用します。
Script Editor で開く
tell application "Safari"
set documentList to name of documents
end tell
これで、ドキュメントを持ったウィンドウの取得はできました。AppleScript を信頼するなら返ってきたリストの最初の要素が最前面のドキュメントになるのですが。そこで、このリストの中から最前面のウィンドウを調べるのですが...。
スクリプタブルな Cocoa アプリケーションにも関わらず、一番手前にあるウィンドウの参照を確実に返すアプリケーションがあります。また、このアプリケーションは windows と記述したときに表示されているウィンドウのみを対象にします。System Events です。
Script Editor で開く
tell application "System Events"
tell process "Safari"
name of windows
end tell
end tell
このスクリプトを実行すると、表示されているウィンドウを重なり順のリストで返してくれます。リストの一番最初にある要素が表示されているウィンドウの中で最前面にあるウィンドウになります。先のドキュメントのリストと System Events で得られるウィンドウのリストを比較すれば、どれが一番最前面のウィンドウかが分かります。具体的には以下のような感じです。
Script Editor で開く
set frontWindow to getFrontWindow("Safari")
if frontWindow is missing value then return
name of frontWindow
on getFrontWindow(applicationID)
tell application applicationID
set documentList to name of documents
if documentList is {} then return missing value
set documentName to my windowFilter(name of it, documentList)
if documentName is missing value then return missing value
set frontWindow to windows whose name of it is documentName
if frontWindow is {} then return missing value
return first item of frontWindow
end tell
end getFrontWindow
on windowFilter(thisProcess, compList)
tell application "System Events"
tell process thisProcess
set windowList to name of windows
repeat with thisWindow in windowList
set thisWindow to contents of thisWindow
if thisWindow is in compList then return thisWindow
end repeat
return missing value
end tell
end tell
end windowFilter
なんでこんな面倒な事せにゃならんねん、と思わないでもないですが。しかし、このスクリプトは動かない事もあります。Mac OS X 10.5 Leopard の目玉機能の一つ Spaces です。
Spaces で Script Editor と Safari を個別の画面に設定しているのですが、System Events で対象のアプリケーションプロセスを処理する時、そのプロセスが Spaces で別の画面にあると処理が行われないのです。
Script Editor で開く
tell application "System Events"
tell process "Safari"
windows
--> {}
end tell
end tell
このスクリプトを Script Editor で開き、Spaces で Safari を Script Editor と別の画面に割り当てると、Safari でウィンドウを開いているにも関わらず結果は必ず空になります。これだから System Events 嫌いなんだよ。UI Element を操作する時はプロセスを前面に持ってくる必要があるとか、制限が多過ぎて「確実」、「完璧」そして「美しく」、「華麗に」が好きな私に相容れないんだよ。
Script Editor で動作を確認しながら動かしている時はともかく、スクリプトメニューなどから実行すれば問題はないのですが。結果、Safari で最前面にあるウィンドウの現在のタブで選択している文字列を取得するスクリプトは以下のようになりました。
Script Editor で開く
on run
try
set frontWindow to getFrontWindow("Safari")
if frontWindow is missing value then return
set textSelection to getSelection(frontWindow)
on error eMessage number eNumber
tell application (path to frontmost application as text)
activate
display dialog (eNumber & " : " & eMessage) as text buttons {"OK"} default button 1 with icon 1
end tell
end try
end run
on getSelection(thisWindow)
tell application "Safari"
set selectedText to {}
set end of selectedText to do JavaScript "getSelection();" in current tab of thisWindow
set frameNum to do JavaScript "parent.frames.length;" in current tab of thisWindow
set num to 0
repeat while num < frameNum
set theCommand to "parent.frames[" & num & "].getSelection();" as text
set end of selectedText to do JavaScript theCommand in current tab of thisWindow
set num to num + 1
end repeat
return selectedText as text
end tell
end getSelection
on getFrontWindow(applicationID)
tell application applicationID
set documentList to name of documents
if documentList is {} then return missing value
set documentName to my windowFilter(name of it, documentList)
if documentName is missing value then return missing value
set frontWindow to windows whose name of it is documentName
if frontWindow is {} then return missing value
return first item of frontWindow
end tell
end getFrontWindow
on windowFilter(thisProcess, compList)
tell application "System Events"
tell process thisProcess
set windowList to name of windows
repeat with thisWindow in windowList
set thisWindow to contents of thisWindow
if thisWindow is in compList then return thisWindow
end repeat
return missing value
end tell
end tell
end windowFilter
一応、フレームのあるサイトの選択文字列にも対応。以上、「Safari」と「System Events」と「Spaces」による三題噺でした。